
VITUREからXRグラス用オプション品として発売されている「VITURE Pro ネックバンド」を入手しました。ハンドジェスチャー操作、対応するアプリ、処理性能などのポテンシャルをVITURE Pro XRグラスと合わせて見ていきたいと思います。
製品概要
VITURE Pro ネックバンド(以下『Pro ネックバンド』と表記)はVITUREから発売されているXRグラス用のオプシン品です。
XRグラス(ARグラス/スマートグラス)はVITURE以外の製品も含めディスプレイとしての機能のみを備えているものがほとんどで、スマートフォン・タブレット・PC・ゲーム機といった映像ソース兼電源に接続して利用することになります。この映像ソース兼電源を携帯可能な専用デバイスとし、場合によっては操作機能も含める取り組みがXRグラスメーカー各社で行われており、VITUREが投入する専用デバイスの2世代目がPro ネックバンドです。
VITURE One ネックバンドとの違い
前モデルのVITURE One ネックバンド(以下『One ネックバンド』)が本体上に備わった方向キーやボタン類で操作する形態だったのに対し、Pro ネックバンドでは専用のカメラで検出した手の動きによって操作を行う「ハンドジェスチャー」機能が(ベータ版扱いで)搭載されました。これによってネックバンドに触れることなく、外部機器もなしに手だけで操作を行えるようになっています。詳細な挙動は後述します。
また、軽量化やSoCの処理性能・最大RAM容量の向上、Wi-Fi 6E(IEEE 802.11ax)のサポート、最大稼働時間の延長など、操作性以外の点でもスペックアップが図られています。Pro ネックバンドとOne ネックバンドの違いは下表をご覧下さい。
Pro ネックバンド | One ネックバンド | |
---|---|---|
OS | Android 13 | Android 11 |
プロセッサ | 非公開 (CPU性能7倍、GPU性能40倍) | 非公開 |
RAM/ストレージ構成 | 8GB/128GB 12GB/256GB | 2GB/128GB |
無線LAN | Wi-Fi 6E (IEEE 802.11ax) | Wi-Fi 5 (IEEE 802.11ac) |
Bluetooth | Bluetooth 5.2 | Bluetooth 5.0 |
バッテリー容量 | 3,280mAh | 3,280mAh |
最大稼働時間 (公称値) | 約4時間 | 約3時間 |
重量 | 約170g | 約194g |
VITURE Pro XRグラスの使用感
持ち運べるディスプレイとして

XRグラスの性質上、実際に使用した際の見え方を共有することが難しいものの、日常的に使用しているPC用ディスプレイやスマートフォンのディスプレイと比較してVITURE Proのディスプレイの輝度や発色に不足は感じず、コンテンツ鑑賞用途として十分なスペックが確保されていると感じます。また、レンズ上部に設けられた視度調整ダイヤルにより、やや近視傾向のある筆者でもピントがしっかりと合った映像を見ることができました。
レンズ部分に内蔵された電子調光フィルムによる光透過率の変更は左ツル下部のワンボタンで行え、0.5%と40%を切り替えられます。0.5%の状態は十分に暗く、映像への没入感を向上させることができました。40%状態ではある程度外部を視認でき、Pro ネックバンドのアンビエントモードでも40%への自動切り替えが行われます。
画面サイズは3メートル先の135インチスクリーンに相当すると謳われているものの、視界全体を画面が覆い尽くすような表示ではないため、大画面!という強いインパクトは受けにくいかもしれません。使用した際の印象としては60cmほど先にある20インチ台のディスプレイと概ね等しいという感覚でした。ただし同クラスのディスプレイを携帯することは極めて困難と言わざるを得ないので、持ち運べるディスプレイとして捉えた際のVITURE Proは優秀と表現して差し支えないでしょう。


蓋の内側(画像上部)にはUSBケーブルを収納可
ブラックとオレンジを基調にしたデザインの専用キャリングケースが付属しており、別途ケースを用意することなくVITURE Proおよびケーブルを安全に持ち運べます。
装着感
光学系や処理系機構を搭載しているVITURE Proは当然ながら一般的なメガネやサングラスよりも重く、ケーブルを含まない本体のみの重量は77gです。個人的には重さによる影響はさほど感じませんでしたが、左右のツルによる締め付けがやや強く思えます。
スピーカー

VITURE Proは左右のツルにスピーカーを内蔵しており、別途オーディオ機器を用意することなく単体で音声出力が可能です。音質自体はさほど悪くなく、音漏れを抑える設計と謳われてはいるものの、スピーカーである以上大音量時の音漏れは否応なく発生するので、周囲に人がいる環境で利用する際はイヤホンやヘッドホンを併用したほうが無難でしょう。
独自の接続端子

VITURE Proおよび旧モデルのVITURE Oneは磁力で固定可能な独自仕様の端子を備えており、両端にUSB Type-C端子と独自端子を設けたケーブルが付属します。また、Pro ネックバンドに一体化しているケーブルにも当然ながら独自端子が使用されています。
Apple MacBookシリーズのMagSafe端子同様、プラグをレセプタクルに差し込む動作を行うことなくワンタッチで接続でき、さらに引っ張る・ひねる力が加わると容易に外れるため、ケーブルを何かに引っ掛ける等の要因で急な力が加わった際にグラスや装着者へのリスクが少ないというメリットがあります。グラスと映像ソースをケーブルで接続した状態で持ち歩く場合があるXRグラスでは後者が特に重要でしょう。
反面、VITURE製品以外では採用されていない独自規格のため、市販の汎用ケーブルやアクセサリが直接使用できないというデメリットも存在します。
VITURE Pro ネックバンドの使用感
外観と装着感
Pro ネックバンドは「ネックバンド」の名前通り、首に掛けるバンドとヒンジで繋がった操作・処理部分、および片側から伸びた短いケーブルで構成されています。ネッククーラーやネックスピーカーをイメージするとわかりやすいでしょうか。持ち運ぶ際は両側をヒンジで折り畳むことにより、バンド全体の長さを半分程度に抑えられます。

Pro ネックバンド以外の機器をグラスに接続する際はグラスから長いケーブルが伸びるため、手や体の動きが制約を受けやすい状態になりますが、グラスのすぐ下でケーブルが止まるPro ネックバンドであれば動作への影響はほとんどなく、グラスを装着した状態でも自由に動くことができます。

USB Type-C端子・ハンドジェスチャー用カメラ・冷却ファンは右側、各種ボタン類(電源・音量調節・設定)は左側に設けられています。左右での重量の偏りはなく、首への負荷もさほど強くは感じられません。左右どちらも光沢のある素材が用いられており、素手で触ると指紋が目立ちがちです。
ファンの動作音

Pro ネックバンドの右側には冷却ファンが内蔵されており、高回転数の「Power Boost」、負荷状況に応じて回転数を調節する「Balanced」、回転数を抑え静かに動作する「Quiet Mode」を設定から切り替えられます。後述するハンドジェスチャーを利用する場合、モードは「Power Boost」もしくは「Balanced」に設定する必要があります。
小型ファンであることから高回転時の動作音を懸念していましたが、「Balanced」で利用した限りでは負荷が掛かっていると思われる状況でもさほどうるさくはありませんでした。グラス側スピーカーから音を出しているか、イヤホン・ヘッドホンを装着していれば特段の問題にはならないでしょう。ただし電源投入時やスリープからの復帰時など、ファンが停止状態から始動する際に発する「キュイッ」・「キュルキュルッ」といった音が多少気になりました。
ソフトウェアの使い勝手
Pro ネックバンドは「Androidモード」と「SpaceWalkerモード」の2つを切り替えて使用できます。各モードの使い勝手をそれぞれ分けて紹介します。
Androidモード

Androidモードは3DoFやマルチスクリーンなどVITURE固有の機能を制限し、一般的なAndroid端末相当の操作が可能なモードです。固有機能を制限する代わりにSpaceWalkerモードよりもレイテンシを軽減しパフォーマンスを改善すると謳われているため、ゲームプレイが主な用途の場合はこちらのモードを中心に利用することになりそうです。
ナビゲーションバー相当の位置にドックおよびアプリ一覧ボタンが表示され、ハンドジェスチャー等に関する通知アイコンが現れる違いはあるものの、横向き表示のAndroidスマートフォンやタブレットと同じ感覚で操作できました。設定画面もほぼプレーンなAndroidのものですが、VITURE固有の設定を変更しようとした際に項目が様々なカテゴリに分散している点がやや気になります。また、試用時点のソフトウェアでは、本体の言語を日本語に設定していてもVITUREの固有部分は英語で表示されました。
Pro ネックバンドで使用できるアプリ・できないアプリ
VITURE One ネックバンドではGoogle Playを含むGAppsをユーザーが導入する必要があったようですが、Pro ネックバンドにはGAppsが標準で含まれており、一般的なAndroid端末と同様にGoogleアカウントでサインインすることでGoogle Playからアプリをインストールできます。
Google Playではタブレットとして扱われ、(快適に動作するかは別として)大半のアプリ・ゲームをインストール可能です。Pro ネックバンド上のGoogle Playで表示されない、もしくはブラウザ版Google Playの「他のデバイスへのインストール」でPro ネックバンドへのインストールが不可能だったアプリを参考として以下に記載します。
- Pokémon GO
- Pikmin Bloom
- モンスターハンター Now
- Amazon ショッピングアプリ
- PayPal
- PayPay
- Yahoo!ブラウザー
SpaceWalkerモード
SpaceWalkerモードは3DoF・マルチスクリーン・アンビエントモードなど、Pro ネックバンドが備える機能をフルに活用するモードです。Android/iOS版のSpaceWalkerではブラウザなどアプリ内の機能のみを利用できるのに対し、Pro ネックバンドのSpaceWalkerモードは任意のAndroidアプリを実行できるというメリットがあります。
3DoFを有効にすることで画面を空間に固定したような状態となり、頭を動かして画面の端を注視したり画面を視界から外すことが可能になります。マルチスクリーンは最大2つのアプリ + ホーム画面を表示できるもので、あくまでも動画視聴 + ウェブブラウズのようなユースケースが想定されており、様々なタスクをPro ネックバンド上で切り替えながら行うことにはあまり向かないと思われます。
操作
ハンドジェスチャー操作
外部の操作手段を用いずPro ネックバンドと手だけで操作を完結させるための重要なファクターであるハンドジェスチャー機能ですが、事前の想像通りかなりの曲者でした。

カーソル移動は親指と人差し指を広げたような状態の手を動かすことで行えます。ジェスチャー認識用のカメラがネックバンドの右側にあることを意識すれば移動自体はさほど難しくありませんが、主に画面の端へカーソルを動かそうとした際、カーソルが手の動きに追随せず途中で止まる現象が見られました。いったん手を大きく動かすことで解消されるものの、意図した場所にカーソルを持っていけないため強い違和感があります。
決定は親指と人差し指でつまむ動作で、この入力は概ね安定して行えました。
移動と決定に比べて難易度が高いのが戻る操作です。手のひらを上に向けた状態で親指と人差し指をつまむ動作が割り当てられていますが、体感での成功率は半分程度といったところでしょうか。更につまんだ状態を維持することでクイック設定を開けるものの、こちらの入力も同様に困難を伴います。

別途機器を持たずともグラスに表示したコンテンツの操作を可能にするというコンセプトは理解できるものの、全操作をハンドジェスチャーのみで完結させるのは難易度が高いというのが正直な感想です。今後のソフトウェアアップデートで挙動が改善されるか、もしくはハンドジェスチャーを活用したいという強い意志がない限り、Neckband Remoteを導入したスマートフォン、もしくはその他の入力機器を利用するのがベターだと思われます。
Neckband Remote
Neckband RemoteはAndroid/iOS向けの専用アプリをインストールしたスマートフォンとPro ネックバンドをBluetoothで接続し、スマートフォンをタッチパッドとして操作を行えるようにするものです。概ねSamsung DeXのタッチパッドと同様で、スマートフォンのオンスクリーンキーボードによる文字入力も可能です。
Android版
iOS版

接続完了後はスワイプでカーソル移動、タップで決定、3箇所の同時タップで戻る、画面右端での上下スワイプでスクロールの操作が行えます。他の入力機器を用意しない限り、この方法での操作が最も確実と思われます。タッチパッドのほか上下左右とOKボタンによる入力が可能な方向キーモード、スマートフォン本体の動きでカーソルを操作する空中マウスモードも用意されています。
細かな点としてはアプリ起動中もスマートフォンのナビゲーションバーが表示されるため、位置を意識しないとNeckband Remoteとナビゲーションバーの戻るボタンを取り違えることがありました。ジェスチャーナビゲーションを使用している場合は問題なく操作可能です。
ゲームパッド操作
Pro ネックバンドは一般的なAndroid端末同様、Bluetoothで接続したゲームパッドによる操作に対応しています。8BitDo Ultimate C Bluetooth Controllerをベースに専用デザインとした「VITURE x 8BitDo Ultimate C Bluetooth コントローラー」がアクセサリとして販売中ですが、これに限らず通常のBluetooth対応ゲームパッドも使用できます。手元にあったBIGBIG WON(MOJHON)GALEを接続して問題なく操作可能でした。
ゲームパッドでPro ネックバンドを操作する際に重要なのが、Pro ネックバンドのシステムには「Stick Controls」と「In-Game Controls」の2つの状態が存在することです。
ゲームパッドをPro ネックバンドとペアリングすると、ゲームパッドの入力をマウスのように扱う「Stick Controls」状態となります。左スティックがカーソル移動、右スティックがスクロール、Aボタンが決定、Bボタンが「戻る」として機能し、Neckband RemoteやハンドジェスチャーなしでPro ネックバンド上の各種操作を行えます。
プリインストールされているPXPlay・XBXPlayや「Moonlight」によるリモートプレイ、もしくはゲームパッドに標準対応しているAndroidゲームをプレイする場合、LB + RB(XInput準拠ゲームパッドの場合)を長押ししてゲームパッドの入力をそのまま扱う「In-Game Controls」に切り替える必要があります。この状態ではタッチ操作や決定・戻るの操作がゲームパッドから行えないため、アプリでタッチ操作による入力を求められる場合はNeckband Remoteから入力するか、一時的に「Stick Controls」へ切り替えることになります。
他の機器での操作
Pro ネックバンドにサードパーティ製の入力機器をいくつか接続してみたところ、予想外に便利だったのがエレコム Relacon(M-RT1BRXBK)です。
Relaconはトラックボール・マウスボタン・ホイール、戻る・進むボタン、メディアコントロールボタンを備えているため、Pro ネックバンドに接続することでカーソル移動・決定(クリック)、スクロール、戻る、音量調節、メディア再生時の再生/一時停止・前へ戻る・次へ進むといった操作をRelaconだけで行えます。
VR機器やAndroid TV向けのリモコンとして発売されている、スティック・パッドやジャイロセンサーによるポインティング機能を備える機器でも同様の操作が行えるため、1台あるとスマートフォンのバッテリーを消費せずにPro ネックバンドを操作することができて便利かもしれません。
Pro ネックバンドでのリモートプレイ
Pro ネックバンドにはPlayStationのリモートプレイに対応する「PXPlay(旧PSPlay)」、Xboxに対応する「XBXPlay」がプリインストールされていますが、対応ハードウェアを所持していないため今回は「Moonlight」を別途インストールしPCゲームのリモートプレイを試みました。ホストとなるPC側には「Sunshine」を導入しています。
Pro ネックバンドとPCを同じ無線LANルーターに接続した状態で動作を確認したところ、明確に体感できるレベルの遅延や映像の乱れはなく、SteamのBig Pictureモードおよびそこから起動したゲームを快適に操作できました。SunshineによるストリーミングはNVIDIA/AMD/IntelのGPUを搭載した幅広いPCで利用できるので、プレイしたいゲームが動作するPCを所有していればPro ネックバンドとの組み合わせで持ち運べるゲーム環境を構築できます。
Pro ネックバンドのプロセッサと性能
Pro ネックバンドが搭載するプロセッサの情報はOne ネックバンドからの性能向上幅が公開されているのみで、実際にどのプロセッサを搭載しているかは明示されていません。このため、実機上で「Device Info HW」等のアプリを使用し、プロセッサを含むハードウェアおよびハードウェアの情報取得を試みました。結果としてプロセッサの型番が「SM7325」、GPUが「Adreno 643」であることから、Pro ネックバンドにはQualcommのIoT向けプロセッサであるDragonwing QCS6490が搭載されているのではないかと思われます。
QCS6490は2021~2022年頃のミドルレンジスマートフォンに搭載されていたSnapdragon 778G/778G+と同等の構成で、より新しいプロセッサではSnapdragon 7s Gen 2やMediaTek Dimensity 7300に近い性能です。『鳴潮』・『ゼンレスゾーンゼロ』など高い処理性能を要求するタイトルを単独でプレイするには非常に厳しいものがありますが、Pro ネックバンドが主な用途として想定する動画視聴・クラウドゲーミング・リモートプレイは快適にこなせ、ライトなゲームであれば単体プレイが可能なスペックと言えるでしょう。

実際にファンのモードを「Balanced」に設定しAnTuTu Benchmark v10でベンチマークを行ったところ、総合スコアは69万点台でした。Android版の『Minecraft(Minecraft: Bedrock Edition)』も単体で動作可能なものの、2025年6月に追加された拡張描写モード「バイブラントビジュアルズ」を有効にした状態でのプレイは困難です。
VITURE Pro ネックバンド + グラスを使用した感想
VITURE Pro XRグラスは輝度・彩度・視野角といった面で概ね優秀であり、ピントを自由に合わせられる視度調整機能や内蔵スピーカーを含めて、手軽に持ち運べるコンパクトかつ軽量なディスプレイとして活用できるでしょう。コネクタが独自仕様という懸念点はあるものの、独自仕様のメリットとして着脱の容易さを享受できます。
VITURE Pro ネックバンドも首掛け型の構造によってスマートフォンとの長いケーブル接続から解放され、搭載されたAndroid OSと独自実装のSpaceWalkerモードによって動画コンテンツ視聴やウェブブラウジング、ゲームのリモートプレイといった用途を手軽にこなせます。ただし主にハンドジェスチャー操作において強いクセが見られ、現行のハイエンド・ミッドハイスマートフォンに比肩する処理性能ではないという点は念頭に置いておく必要がありそうです。