TP-Linkのメッシュネットワーク製品「Deco X50」を入手しました。既存の同クラス機とはやや異なる仕様の同機について、仕様・機能や実際の通信速度を見てみたいと思います。
(本商品はティーピーリンクジャパン株式会社(Twitter : @tplinkjapan)より提供を受けています)
Deco X50 | AX3000メッシュWi-Fi 6システム | TP-Link 日本
製品概要
Deco X50は2022年3月に発表された製品で、国内向けのDecoシリーズではDeco X20・X60・X90・Voice X20に続き5例目となるIEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)対応モデルです。
無線LAN通信速度(5GHz帯1) 空間ストリーム数 / 帯域幅 | 最大2,402Mbps 2ストリーム / 160MHz |
無線LAN通信速度(5GHz帯2) 空間ストリーム数 / 帯域幅 | 非対応 |
無線LAN通信速度(2.4GHz帯) 空間ストリーム数 / 帯域幅 | 最大574Mbps 2ストリーム / 40MHz |
外部アンテナ数 | なし(内蔵のみ) |
WAN/LAN端子 | 3基(1000BASE-T) WAN/LAN自動判別 |
USB端子 | なし |
CPU | 2コア 1GHz |
RAM / フラッシュメモリ | 非公開 |
セキュリティ機能 | TP-Link HomeShield |
フレッツ網上の IPv4 over IPv6サービス | 非対応 ※ |
2022年1月のCES 2022では同クラスの製品としてPoE受電に対応する「Deco X50-PoE」、更にIP65等級の防水・防塵性能を備え屋外設置が可能な「Deco X50-Outdoor」が発表されていますが、これらの国内発売については現時点でアナウンスがありません。
Deco X50とX60の違い
同クラス(デュアルバンド『AX3000』)の既存モデル「Deco X60」には4基搭載されていた5GHz帯のアンテナが、Deco X50では2基に削減されています。ただし160MHz幅(HE160)での通信に対応したことで最大通信速度の変更はありません。
また、Deco X60の背面に備わっているWAN/LAN兼用端子は1000BASE-T×2ですが、Deco X50では1基追加され1000BASE-T×3となりました。これによりONU・モデムや既存のルーターと接続しているメインのDecoユニットにもデスクトップPCやNASなど最大2基の有線LAN機器を接続することができます。
円筒状の筐体、セキュリティ・ペアレンタルコントロール機能「TP-Link HomeShield」などの付加機能はDeco X50・X60とも同様の構成です。
外観
TP-Link製品を含む海外メーカーの無線LANルーターには複数本の外部アンテナを備えるモデルが多く見られますが、Decoシリーズなどのメッシュネットワーク製品は大半のモデルがアンテナを内蔵しており、Deco X50も例に漏れません。動作状態を示すLEDもあまり目立たない底面配置で、目に見える場所に設置しても違和感は少ないと思われます。
背面には3基のWAN/LAN兼用端子とDC電源端子、底面には状態を示すLEDとゴム足があります。余談ですが、Deco M5やGoogle WifiなどIEEE 802.11ac世代のメッシュネットワーク製品で見られたUSB Type-C端子からの給電はネットワーク機器の分野ではあまり普及せず、どちらも新モデルないし新リビジョンでDC電源端子に変更されています。
付属品
2ユニットパックは各2基のユニット本体と電源アダプタ、1本のLANケーブルから成ります。2ユニットパック・3ユニットパックでもLANケーブルは1本のみのため、有線バックホール運用や有線LANクライアントの接続を検討している場合は別途用意が必要です。
セットアップ
Decoシリーズはスマートフォンからの管理が想定されており、初回利用時には「TP-Link Deco」アプリからセットアップを行うことになります。PC等のブラウザからアクセスできるWebインターフェイスも用意されているものの機能は限定的で、初期設定をブラウザから行うことはできません。
手順は至ってシンプルで、メインのDecoユニットをONU・モデムや既存のルーターに接続した状態でしばらく待ち、LEDが青く点滅する状態になった後にDecoアプリからSSID・暗号化キーやインターネット接続方式の設定を行うのみです。
Web管理画面
ブラウザから「 http://192.168.68.1 」(Decoを標準設定・ルーターとして利用している場合)にアクセスするとWeb管理画面が開き、Decoネットワークの状態・ログ確認や一部設定の変更を行えます。変更できる項目が限られており日本語へのローカライズも行われていないため、利用する機会は少ないでしょう。
通信速度
今回は上図のように2基のDeco X50を配置、iPerf3をインストールしたPCをサーバーとしてDeco X50(メイン)のLAN端子に接続し、3箇所でクライアントからiPerf3による速度測定を行いました。iPerf3はTCPコネクション数を5とした状態で1回あたり10秒間のデータ転送を行っています。(-P 5 -t 10)
IEEE 802.11ax(Wi-FI 6)対応クライアントとしてApple iPhone 12、IEEE 802.11ac対応クライアントとしてSamsung Galaxy S9 SC-02Kを使用しており、どちらも2x2 MIMOかつ80MHz幅(HE80/VHT80)対応のため、規格上の最大リンク速度は前者が1,201Mbps、後者が866Mbpsです。
Deco X50の設定はほぼデフォルトですが、Decoアプリの「その他」→「詳細」→「高速ローミング」からIEEE 802.11r準拠のローミングを有効化しています。ファームウェアバージョンは記事執筆時点で最新の1.0.6 Build 20211224 Rel. 43903です。
転送速度 (Wi-Fi 6) | 転送速度 / 電波強度 (Wi-Fi 5) | |
---|---|---|
地点A(メイン付近) | 700Mbps | 328Mbps / -30dBm前後 |
地点B(メイン設置階・壁越し) | 189Mbps | 111Mbps / -60dBm前後 |
地点C(異なる階・壁越し) | 210Mbps | 159Mbps |
どちらのユニットからも距離があり間に遮蔽物の入る地点Bではわずかに速度が落ちたものの、それ以外の場所では十分な速度を確保できるようです。今回は80MHz幅での検証のみ行いましたが、Intel Wi-Fi 6/Wi-Fi 6Eシリーズなど160MHz幅(HE160)対応クライアントであればさらなる速度の向上が期待できると思われます。
電波強度
2基のDeco X50を設置した状態でAndroid版「Wi-Fiミレル」を使用し電波強度の計測・ヒートマップによる可視化を行いました。(間取りは実際の環境よりも簡略化しています)
地点Bを除き大半のエリアが通信に支障の出ない程度の電波強度でカバーされていることが確認できます。
短所
IPv4 over IPv6非対応
TP-Link製無線LANルーターは現行製品の多くがNTT東西のフレッツ網におけるIPv4 over IPv6接続サービスをサポートしているものの、Decoシリーズは(フレッツ網での動作未確認・β扱いのDS-Liteを除いて)IPv4 over IPv6接続に対応していません。Deco X50も例外ではなく、フレッツ光・コラボ光でIPv4 over IPv6接続を利用する際はNTT東西から提供されるひかり電話ルーター・ホームゲートウェイ、もしくは他社製品を含む市販のMAP-E/DS-Lite対応ルーターが必要です。
LAN端子の数・速度
従来のWi-Fi 6対応Decoシリーズに比べて拡充されたとはいえ有線LAN端子の数が限られており、多数の有線LAN対応機器を接続するようなユースケースには不向きです。別途スイッチングハブを用意するか、複数のLAN端子を備える無線LANルーターと対応中継機を組み合わせて「OneMesh」によるメッシュネットワーク構築を検討することになります。
また、Deco X50の位置付けを踏まえると必要性はさほど高くないと思われますが、3基のLAN端子はいずれも1Gbps超の通信を可能とする10GBASE-T/5GBASE-T/2.5GBASE-Tに対応していません。
所感
ミドルレンジモデルのため有線LANの速度に限りがあり、IPv4 over IPv6接続の未サポートもDecoシリーズ共通の欠点として残っているものの、Wi-Fi 6ベースのメッシュネットワークを比較的手頃な価格・簡単な設定手順で構築でき、メッシュWi-Fiの構築目的では十分に役割を果たすことができるかと思います。