「iPhone 16 Proが40Gbps超のWi-Fi 7対応」は真実か

本記事はiPhone 16 Proシリーズが発表される以前のものです。実際のiPhone 16 Pro(および通常のiPhone 16)はWi-Fi 7対応で2024年9月に発表されました。


2024年7月から8月にかけて一部メディアで報じられている「iPhone 16 Proシリーズが最大40Gbps超のWi-Fi 7(IEEE 802.11be)に対応する」の可能性を現在明らかになっている情報から検証してみたいと思います。

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要約

Wi-Fi 7の規格上限値である最大46Gbpsを実現するには単一周波数帯の場合で16基のアンテナが必要です。サイズや使用可能なスペースに強い制約があるスマートフォンにこの数のアンテナを実装するのは困難であり、過去に発売されたスマートフォンでも単一周波数帯で4基(4ストリーム)以上のWi-Fi用アンテナを搭載している例はほぼ存在しません。

Wi-Fi 7に対応し従来モデル比でわずかでも高速化される可能性は実機の発表まで否定できないものの、40Gbps超のWi-Fi通信をスマートフォンで実現できる可能性はiPhone 16 Proシリーズに限らず著しく低いと考えられます。

Wi-Fi 7における40Gbps超の要件

Wi-Fi 7の通信速度は最大46Gbpsですが、すべての環境でこの速度を実現できるわけではありません。

最大の障壁となるのが空間ストリーム数(アンテナ数)です。Wi-Fi 7では最大帯域幅を320MHz、変調方式を4096QAMとしたことで空間ストリームあたりの通信速度が2,882Mbpsまで上昇(Wi-Fi 6は1,201Mbps、Wi-Fi 5は433Mbps)しているものの、46Gbps(46,112Mbps)に到達する空間ストリーム数は16、すなわち16基のアンテナを同時に使用する必要があります。

これに対し、内部の空間が少ないスマートフォンに多数のアンテナを実装することは極めて困難です。スマートフォンに搭載されるWi-Fiのアンテナ数は周波数帯あたり2基、エントリーモデルでは1基の例が大半を占めており、iPhoneでも2023年のハイエンドモデルであるiPhone 15 Pro Max(A3105/A3106/A3108)に搭載されているアンテナは5GHz帯/6GHz帯兼用が2基、2.4GHz帯およびBluetooth用が2基であることがFCC認証資料より明らかになっています。

A3105_A3106_A3108_Part 15_Antenna_Gain_v2.0 Test Report

iPhone 16シリーズが40Gbps超の通信に必要な16基のアンテナを搭載するか否かは実機が発表されWi-Fiの仕様が明らかになるまで断定できませんが、従来の例から考えると搭載の可能性は非常に低いと考えられます。

iPhoneがWi-Fi 7に対応した場合の速度はどうなるか

前項ではWi-Fi 7による40Gbps超の通信をスマートフォンで実現することの難しさを述べましたが、ここでは仮にiPhoneが現行の2ストリームを維持しつつWi-Fi 7に対応した場合の通信速度を考えてみます。

Wi-Fi 7における1ストリームあたりの最大通信速度は前述の通り2,882Mbpsで、6GHz帯で320MHz幅の帯域を確保し変調方式を4096QAMとした場合のものです。これを2ストリームに拡大した場合の5,764MbpsはQualcomm FastConnect 7800やIntel Wi-Fi 7 BE200といったスマートフォン・PC向けWi-Fi 7チップセットで実例が見られ、ある程度可能性が高い構成と思われます。

何らかの理由で320MHz幅の通信がサポートされず160MHz幅までの対応に留まった場合、帯域幅を拡張せずに変調方式のみが4096QAMへアップグレードされ、iPhone 15 Proシリーズの2,402Mbpsからわずかに上昇した2,882Mbpsとなります。

どちらのパターンでもiPhone 15/15 Proシリーズ以前のモデルに比べれば高速化されたと言えるものの、40Gbpsには遠く及びません。