
PCで利用可能なWi-Fi 7(IEEE 802.11be)対応モジュールの概要、AMD環境で利用する際に注意すべき事項などをまとめています。
Intel
2025年2月現在、IntelからはWi-Fi 7モジュールとして「Intel Wi-Fi 7 BE200」("Gale Peak 2")と「Intel Wi-Fi 7 BE202」("Misty Peak 2")、「Intel Wi-Fi 7 BE201」("Fillmore Peak 2")の3製品が投入されています。
Intel WiFi 7 BE200 Product Specifications
Intel WiFi 7 BE202 Product Specifications
BE200とBE202の大きな違いは最大通信速度です。BE200は6GHz帯で空間ストリーム数を2、占有帯域幅を320MHz、変調方式を4096QAMとした最大5.8Gbpsの通信を行えますが、BE202は帯域幅と変調方式がそれぞれ160MHz/1024QAMに制限されており、通信速度はWi-Fi 6世代のAX20x/AX21x/AX411シリーズと同じ最大2.4Gbpsとなります。
BE201とBE200/BE202の違いはインターフェイスです。BE200/BE202がPCI ExpressおよびUSBでホストと接続されるのに対し、BE201では「CNVio3」が用いられています。インターフェイス以外の仕様は概ねBE200と共通しています。
各モデルにはM.2 2230サイズであることを表すサフィックス「NGW」、M.2 1216を表す「D2W」が用意されています。
BE200 | BE202 | BE201 | ||||
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BE200NGW | BE200D2W | BE202NGW | BE202D2W | BE201NGW | BE201D2W | |
最大通信速度 (6GHz帯) | 5.8Gbps | 5.8Gbps | 2.4Gbps | 2.4Gbps | 5.8Gbps | 5.8Gbps |
フォームファクタ | M.2 2230 | M.2 1216 | M.2 2230 | M.2 1216 | M.2 2230 | M.2 1216 |
インターフェイス | PCI Express (Wi-Fi) USB (Bluetooth) | PCI Express (Wi-Fi) USB (Bluetooth) | PCI Express (Wi-Fi) USB (Bluetooth) | PCI Express (Wi-Fi) USB (Bluetooth) | CNVio3 | CNVio3 |
CNVio3とは
Wi-Fi 5(IEEE 802.11ac)世代のIntel製無線LAN/Bluetoothモジュールにおいて導入されたCNVi / CNVio(Intel Integrated Connectivity)が2度目のメジャーアップデートを遂げた規格がCNVio3です。
Wi-Fi 7における無線区間の通信速度向上に対応するためか、CNVio3ではチップセットとCRFモジュール(Companion RF、CNVio接続を前提としRF部分のみを実装した無線LAN/Bluetoothモジュール)間の帯域幅がCNVio2の5Gbpsから11Gbpsへ引き上げられています。
アップデートに伴って対応するプロセッサ/チップセットも変更されており、2025年2月現在はCore Ultra 200Vシリーズ("Lunar Lake")のみがCNVio3モジュールを利用できます。同じくCore Ultra Series 2であってもデスクトップ向けのCore Ultra 200Sシリーズやモバイル向けのCore Ultra 200U/Hシリーズなど、"Arrow Lake"世代の製品では利用できません。
AMD環境における注意事項
Intel Wi-Fi 7 BE200/BE202が採用しているインターフェイスはIntel ARK等の公式情報に誤りがない限り、対応プロセッサ/チップセットを必須とするCNVioシリーズではなくPCI ExpressおよびUSB(Bluetooth用)です。このため、本来であればPCIe/USBで接続される過去のIntel製モジュール(Wi-Fi 6世代のAX200/AX210、Wi-Fi 5世代のWireless-AC 9260など)と同様にIntelプロセッサ以外との組み合わせが可能であるはずです。
しかしながらBE200ではAMDプラットフォームとの組み合わせで動作しない事例が多数確認されており、AMD環境向けWi-Fi 7モジュールの候補としてBE200/BE202を挙げることは難しい状態となっています。
现有WIFI7网卡踩坑+WIFI7实际峰值速率测试 - 电脑讨论(新) - Chiphell - 分享与交流用户体验
- ASUS ROG STRIX B450-I GAMING? + BE200(2024/03, Reddit)
- ASUS ROG STRIX X570-E GAMING? + BE200(2024/03, Reddit)
- ASUS TUF GAMING X570-PLUS + BE200(2024/03, Reddit)
- ASUS PRIME B450M(型番不詳) + BE200(2023/12, Reddit)
- ASUS ROG STRIX B450(型番不詳) + BE200(2023/11, Zhihu)
RedditではSocket AM2(Athlon 64 X2)プラットフォーム上のUbuntu 24.04でBE200が動作し、B550マザーボードで動作しない問題についてチップセット/CPUメーカーのAMD、モジュールメーカーのIntel、マザーボードメーカーのMSIに連絡した際の対応も報告されています。
GIGABYTEがX670E AORUS PRO XやTRX50 AERO D、MSIがHERALD-BE NCM865 WI-FI 7でQualcomm製のQCNCM865を採用し、ドライバ情報からIntel製モジュールを搭載していると見られるASUS PCE-BE92BTはIntelプラットフォームのみをサポートするなど、無線LAN関連製品でも本件に関すると思しき事例が確認できます。
Intel環境における注意事項
Intel製チップセットを搭載し無線LANモジュール用のM.2スロットを備えるマザーボードは多くの場合Intel Integrated ConnectivityとPCI Express x1の両方をサポートしていますが、ごく一部のマザーボードではM.2スロットがCNViのみをサポートし、BE200/BE202などPCI Express接続のモジュールを利用できない場合があります。(Wi-Fi 6以前のPCI Expressモジュールでも同様の状況が発生し得ます)
例としてASRock J4025MはM.2 Key Eスロットを備えていますが、CNViモジュールのみをサポートしPCIe接続のモジュールには対応していない旨が仕様に記載されています。
MediaTek
2025年2月現在、MediaTekからはクライアント向けWi-Fi 7チップセットとしてFilogic 380(MT7927)とFilogic 360(MT7925)の2製品が発表済みです。Filogic 380は320MHz幅の通信をサポートする上位モデル、Filogic 360は帯域幅を最大160MHz幅に制限したメインストリームモデルと位置付けられ、それぞれIntel BE200/BE201とBE202に相当します。
BE200が単体でも広く流通しているのに対してFilogic 380は単体での流通がほとんど確認できず、GIGABYTE Z790 AORUS MASTER Xの一部リビジョンやLenovo Legion 9 16IRX8など、限られたマザーボードやPCへの搭載事例が見られるのみとなっています。
Filogic 360 / MT7925はWi-Fi 7対応マザーボードに搭載されるモジュールとして広く流通しており、特にAMDプラットフォームのマザーボードでは前述の通りBE200/BE202との互換性に問題があるためか、320MHz幅での通信に対応しないFilogic 360もしくはRealtek RTL8922AEの搭載例が多く見られます。また、モジュール単体での販売例も多く確認できます。
Qualcomm
2025年2月現在、Qualcommからはクライアント向けWi-Fi 7インターフェイスとしてFastConnect 7800(WCN785x)とFastConnect 7900(WCN788x)の2種が発表されています。
どちらも6GHz帯において最大5.8Gbps(2ストリーム/320MHz)の通信に対応するほか、MLOで5GHz帯と6GHz帯、もしくは2つの5GHz帯を組み合わせて同時に通信を行えます。Qualcommが「High Band Simultaneous(HBS)」と呼称するこの機能により、2023年に制度が改正される以前の日本のように6GHz帯で320MHz幅の通信が行えない地域でも、6GHz帯と5GHz帯でそれぞれ160MHz幅の帯域を確保して320MHz幅相当とする事が可能です。
本記事を最初に公開した2024年5月時点ではFastConnect 7800をモジュール化したQCNCM865が単体で流通している例はあまり見られませんでしたが、2025年2月現在はAliExpressである程度安定した流通が確認できます。ただし価格についてはBE200/BE202やMT7925よりもやや高額となっています。
Realtek
Realtekのクライアント向けWi-Fi 7モジュールとしてはRTL8922AEが存在します。Realtekからは仕様が公開されていないものの、GIGABYTE製マザーボードへの搭載例から確認する限りは6GHz + 5GHz + 2.4GHzのトライバンドかつ最大160MHz幅=最大2.8Gbpsの通信が可能となっており、Filogic 360 / MT7925に近い仕様と言えます。