Intel(Killer)・AMD/MediaTek・Realtekの各社から発売されている、または今後投入されると思われるPC向けIEEE 802.11ax(Wi-Fi 6 / Wi-Fi 6E)対応無線LANモジュールに関する情報をまとめています。本記事は随時更新します。
2024年のPC向けWi-Fi 6モジュール
2024年現在、Wi-Fi 6およびWi-Fi 6Eに対応するPCにはIntel製のWi-Fi/Bluetoothコンボモジュールが多く搭載されています。Wi-Fi 6E対応製品ではIntel Wi-Fi 6E AX210/AX211、Wi-Fi 6対応製品ではIntel Wi-Fi 6 AX200/AX201を搭載するもの(いずれもKillerブランドの同等品を含む)が大半を占めます。この他にWi-Fiの速度を落とした下位モデルとしてIntel Wi-Fi 6 AX101/AX203、2つの周波数帯を同時に使用できる上位モデルとしてIntel Wi-Fi 6E AX411が存在するものの、先に挙げた4種に比べると採用例は多くありません。
また、AMDがMediaTekと共同で発表したWi-Fi 6E対応モジュール「RZ608」(Filogic 330P / MT7921K)および「RZ616」(同 / MT7922)、RealtekのRTL8852シリーズ(RTL8852AE/BE/CE)、QualcommのFastConnect 6900(WCN685x)を搭載するマザーボードやPCも存在します。
この他、Intel Wi-Fi 7 BE200/BE202、MediaTek MT7927(Filogic 380)、Qualcomm FastConnect 7800といったIEEE 802.11be(Wi-Fi 7)対応モジュールを搭載する製品も登場しており、今後はWi-Fi 7対応製品が徐々に増加すると思われます。
Intel
2024年現在、Intel Wi-Fi 6・Intel Wi-Fi 6Eブランドで供給されているモジュールは大きく7種類で、フォームファクタによって更に細分化されます。
6GHz帯非対応モデル(デュアルバンド)
- Intel Wi-Fi 6 AX200("Cyclone Peak")
- AX200NGW(M.2 2230)
- AX200D2W(M.2 1216)
- AX200D2WL(M.2 1216)
- Intel Wi-Fi 6 AX201("Harrison Peak")
- AX201NGW(M.2 2230)
- AX201D2W(M.2 1216)
- AX201D2WL(M.2 1216)
- Intel Wi-Fi 6 AX101("Harrison Peak")
- AX101NGW(M.2 2230)
- AX101D2W(M.2 1216)
- Intel Wi-Fi 6 AX203("Johnson Peak")
- AX203NGW(M.2 2230)
- AX203D2W(M.2 1216)
6GHz帯対応モデル(トライバンド)
- Intel Wi-Fi 6E AX210("Typhoon Peak")
- AX210NGW(M.2 2230)
- AX210D2W(M.2 1216)
- Intel Wi-Fi 6E AX211("Garfield Peak")
- AX211NGW(M.2 2230)
- AX211D2W(M.2 1216)
- Intel Wi-Fi 6E AX411("Garfield Peak")
- AX411NGW(M.2 2230)
- AX411E2W(M.2 1625)
M.2 2230(22x30mm)形状の製品はマザーボードのM.2 Key Eスロットに取り付けることができ、PCI Express/USBで接続されるAX200/AX210であればIntel製プロセッサ・チップセット以外の環境でも利用できるため、モジュール単体での流通例も数多く見られます。
これに対してM.2 1216形状の製品はノートPC・UMPCなど実装スペースが限られる環境に組み込まれているものの、基本的に単体では流通していません。スロットを介さず基板へ直接ハンダ付けされているため、仮にモジュール単体を入手できた場合の交換も困難となります。
Upgrade soldered M.2 1216 Wireless Card – Ricardo Rodrigues
Steam Deck Mods | Swanson Soldering & Repair(Steam Deckの内部基板にハンダ付けされたWi-Fi 5モジュールをWi-Fi 6E対応のAX210D2Wに換装する事例)
AX2xxシリーズの違い
AX200/AX201とAX210/AX211の違いは主に対応周波数帯とインターフェイスにあります。
AX200/AX201は5GHz帯と2.4GHz帯を利用可能なWi-Fi 6モジュールですが、AX210/AX211はこれに加えて6GHz帯のWi-Fi 6Eに対応しています。なお、空間ストリーム数と最大帯域幅は変わらないため、AX200/AX201の5GHz帯とAX210/AX211の5GHz帯/6GHz帯における最大通信速度は同一(2,402Mbps)です。
AX200とAX210はホストとの接続にPCI Express(+Bluetooth用のUSB)を用いており、対応ドライバが存在するWindows/Linux環境で広く利用可能です。対してAX201/AX211およびAX203/AX101はIntel独自のIntegrated Connectivity(CNVi)によりホスト側の対応チップセットと接続されるため、Intelプラットフォーム以外では利用できない点も大きな違いと言えます。
AX200
AX200はIntelのWi-Fi 6モジュールにおける最もスタンダードな製品であり、5GHz帯で最大2,402Mbps、2.4GHz帯で最大574Mbpsの通信が可能です。
動作に必要なCPUやマザーボードの明確な要件は規定されておらず、64bit版Windows 10またはカーネルバージョン 5.1以降のLinuxが動作していれば(一部メーカー製PCにおいて利用可能なモジュールがホワイトリストで管理されている場合などを除いて)幅広い環境で利用できるため、多くのPC・マザーボード・無線LAN拡張カードで採用されています。
The connector interface of the Intel® Wi-Fi 6 AX200 is PCIe and there is no need for a specific processor for general use.
Minimum Processor Required to Use Intel® Wi-Fi 6 AX200 (GIG+)
Intel Wi-Fi 6 Gig+ Desktop Kit
インテル® Wi-Fi 6 (ギガビット +) デスクトップ・キット 製品仕様
アンテナケーブル接続済みのAX200NGWと外部アンテナ・ブラケットをセットにした商品として「Intel Wi-Fi 6 Gig+ Desktop Kit(AX200.NGWG.DTK)」が販売されており、M.2 2230スロットを備えるデスクトップPCへの組み込みを容易に行えます。
AX201
AX201はWi-Fi/Bluetoothモジュールとして動作するための要素を部分的に切り出したCompanion RF (CRF) Moduleであり、利用するにはCNVio2対応チップセットとCPUが不可欠です。
Each core in the Connectivity Controller has an interface to the host and an interface to its counterpart in CRF. CRF cores include an analog part which is connected to board level RF circuitry and to an antenna.
Intel® 500 Series Chipset FamilyPlatform Controller Hub Datasheet, Volume 1 of 2
AX210
AX210は従来の周波数帯に加えて6GHz帯(5,925 - 7,125MHz)が新たにサポートされたWi-Fi 6E対応モデルです。6GHz帯の通信速度は最大2,402Mbpsで、5GHz帯・2.4GHz帯と合わせてトライバンド「AXE5400」クラスとなります。
日本国内では2022年9月の制度改正によって6GHz帯が利用可能になったため、これより前に発売されたAX210搭載製品では6GHz帯の国内利用がサポートされていない場合があります。
AX211
AX211はAX210と同じくWi-Fi 6Eに対応しているものの、AX201と同様にCNVio2対応プロセッサ・チップセットとの組み合わせでのみ使用可能なモデルです。通信速度はAX210と変わりません。
AX411
2021年第4四半期に投入されたIntel Wi-Fi 6E AX411はAX211同様のCNVio2対応モデルですが、従来の製品と異なりIntel Double Connect Technologyによる2.4GHz帯と5GHz帯、もしくは2.4GHz帯と6GHz帯の同時利用に対応しています。
Intel® Wi-Fi 6E dual-radio products with Intel® Double Connect Technology, when used with file transfer applications that support band aggregation, enable nearly 3 Gbps theoretical speeds with simultaneous 2.4 and 5 or 6GHz band aggregation.
https://edc.intel.com/content/www/us/en/products/performance/benchmarks/wi-fi/
AX200/AX210を組み込んだ製品
PCI Express x1スロットに装着可能なWi-Fi 6/Wi-Fi 6E拡張ボードはほとんどがAX200またはAX210とアンテナ・ブラケット・ヒートシンクの組み合わせで構成されており、国内で販売されている製品ではTP-Link Archer TX3000E・Archer TX50E、ASUS PCE-AX58BTが該当します。アンテナやヒートシンクの形状は製品によって異なるものの、対応規格や最大通信速度などに差異はありません。
社外品Mini PCI Expressモデル
Mini PCI ExpressタイプでIEEE 802.11ax対応を謳う製品として「MPE-AX3000H」・「AX3000HMW」・「AX210HMW」・「AX200HMW」・「TL-AX210」などが流通していますが、これらはいずれも外部の業者が調達したIntel製モジュールをMini PCIe形状のカードに組み込んで販売しているものです。内部でアンテナ線が正しく接続されていない、エンジニアリングサンプルが流用されているといった事例もあるようです。
Killer
「Killer」ブランドを展開していたRivet Networksは2020年にIntelによって買収され、以後「Killer」はIntelのネットワーク機器向けブランドとなりました。
以下の製品を対象に専用ソフトウェア「Killer Control Center」やドライバを含む「Killer Performance Suite」が配布されているものの、ハードウェア部分はIntelのWi-Fi 6/Wi-Fi 6Eモジュールと共通です。(Intel ARKではベースモデルと同じ開発コード名に分類され、同様のオーダーコードが割り当てられています)
Killer製品名 | Intel製品名 | フォームファクタ | 開発コード |
---|---|---|---|
Intel Killer Wi-Fi 6 AX1650 x | Intel Wi-Fi 6 AX200 AX200NGW | M.2 2230 | Cyclone Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6 AX1650 w | Intel Wi-Fi 6 AX200 AX200D2W | M.2 1216 | Cyclone Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6 AX1650 i | Intel Wi-Fi 6 AX201 AX201NGW | M.2 2230 | Harrison Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6 AX1650 s | Intel Wi-Fi 6 AX201 AX201D2W | M.2 1216 | Harrison Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6E AX1675 x | Intel Wi-Fi 6E AX210 AX210NGW | M.2 2230 | Typhoon Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6E AX1675 w | Intel Wi-Fi 6E AX210 AX210D2W | M.2 1216 | Typhoon Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6E AX1675 i | Intel Wi-Fi 6E AX211 AX211NGW | M.2 2230 | Garfield Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6E AX1675 s | Intel Wi-Fi 6E AX211 AX211D2W | M.2 1216 | Garfield Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6E AX1690 i | Intel Wi-Fi 6E AX411 AX411NGW | M.2 1216 | Garfield Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6E AX1690 s | Intel Wi-Fi 6E AX411 AX411E2W | M.2 1625 | Garfield Peak |
Killer AX500(AX500-DBS)
Rivet Networks時代に投入された「Killer AX500(AX500-DBS)」もKiller AX1650と同じくIEEE 802.11axに対応する無線LANモジュールですが、このモデルについては他の製品と異なりQualcommのチップ(Qualcomm FastConnect 6800 QCA6390)が採用されています。
採用例はDell XPSシリーズのごく一部に留まっており、他機種での採用やモジュール単体での流通は確認できません。また、Intelのサイトでもサポート関連情報で製品名は確認できるものの、ドライバ・ソフトウェア類の配布は行われていないようです。(上記『Killer Performance Suite』の配布ページにはKiller AX500を含むQualcomm Atheros製チップ搭載機器向けの新たなドライバを含まない旨の記述があります)
Solved: Re: XPS 13 9310 WiFi randomly shuts down (AX500-DBS) - Page 27 - Dell Community(PCに実装されたAX500-DBSの画像)
AMD
RZ600シリーズ
2021年11月に発表された「RZ600」シリーズは2.4GHz帯・5GHz帯・6GHz帯に対応するWi-Fi 6E + Bluetooth 5.2のコンボモジュールで、MediaTekのチップを基に製品化されています。IntelのCNVio2モジュールと異なり、必要なインターフェイスを備えていればAMD以外のプラットフォームでも動作可能です。
AMD RZ616(MT7922)
上位モデルのRZ616は5GHz帯・6GHz帯で160MHz幅の通信をサポートしており、最大2.4Gbpsでの通信を行えるIntel AX210/AX211相当の仕様となっています。
AMD RZ608(MT7921K)
下位モデルのRZ608では5GHz帯・6GHz帯の最大帯域幅が80MHzに制限されており、通信速度はIntel AX203と同じ最大1.2Gbpsに留まります。2.4GHz帯の通信速度は最大574MbpsでRZ616やIntel AX2xxシリーズと共通です。
MediaTek
製品名・主な仕様の一覧
MediaTek製品名 | MT7921 | MT7921K | MT7922 |
---|---|---|---|
AMD製品名 | - | AMD Wi-Fi 6E RZ608 | AMD Wi-Fi 6E RZ616 |
他社モジュール製品名 | AW-XB468NF (AzureWave) | N/A | N/A |
最大通信速度 (6GHz帯) | - | 1,201Mbps (2str/80MHz) | 2,402Mbps (2str/160MHz) |
最大通信速度 (5GHz帯) | 1,201Mbps (2str/80MHz) | 1,201Mbps (2str/80MHz) | 2,402Mbps (2str/160MHz) |
最大通信速度 (2.4GHz帯) | 574Mbps (2str/40MHz) | 574Mbps (2str/40MHz) | 574Mbps (2str/40MHz) |
MT7921(MT7921L/MT7921LEN)
サフィックス「L」のMT7921L、もしくはサフィックスのないMT7921は5GHz帯で2ストリーム、2.4GHz帯で2ストリームが利用可能なデュアルバンド「AX1800」クラスのWi-Fi 6対応インターフェイスです。AzureWaveによってモジュール化されたAW-XB468NFの名称で流通もしくは搭載されているケースも確認できます。
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ASUS PCE-AX1800
ASUSのグローバル版サイトに掲載されている「PCE-AX1800」はPCI Expressスロットに装着する無線LAN/Bluetoothカードで、製品画像からAzureWave AW-XB468NF=MediaTek MT7921の搭載が確認できます。5GHz帯で最大1,201Mbps、2.4GHz帯で最大574Mbpsの通信に対応するデュアルバンド「AX1800」クラスで、MT7921の仕様上6GHz帯はサポートされていません。
PCE-AX1800|Adapters|ASUS Global
MT7921K
MT7921/MT7921Lが5GHz帯+2.4GHz帯のデュアルバンド構成を採っているのに対し、MT7921Kは6GHz帯のサポートが追加された構成(トライバンド『AXE3000』)です。6GHz帯および5GHz帯の通信速度は最大1,201Mbpsで、MT7921の5GHz帯と変わりません。
M.2 2230形状のモジュールとしてAliExpress等で販売されており、表面には「RZ608」の表記が見られます。
Realtek
RealtekのWi-Fi 6対応製品はメーカーが明らかにしていない部分が多いものの、認証情報や搭載製品の情報を基に判断する限り、2024年2月時点では以下のモデルが存在するようです。(末尾UのUSB対応モデル、末尾SのSDIO対応モデルを除く)
- RTL8852シリーズ
- RTL8852AE
- RTL8852BE:5GHz帯(2ストリーム/80MHz) + 2.4GHz帯(2ストリーム/40MHz)
- RTL8852CE:6GHz帯(2ストリーム/160MHz) + 5GHz帯(2ストリーム/160MHz) + 2.4GHz帯(2ストリーム/40MHz)
- RTL8851シリーズ
- RTL8851BE:5GHz帯(1ストリーム/80MHz) + 2.4GHz帯(1ストリーム/40MHz)
GitHub - lwfinger/rtw89: Driver for Realtek 8852AE, an 802.11ax device
Qualcomm
スマートフォンやタブレットに用いられることが多いQualcomm製品ですがPC向けの無線LANインターフェイスも存在し、特にFastConnect 6900(WCN685x)はDell製品を中心にPCでの採用例が多く見られます。
ENL-Q6856M2 - Enli – DRIVING WIRELESS WISELY
Inspiron 16 5625 Setup and Specifications | Dell US(Realtek RTL8822CE・MediaTek MT7921・Qualcomm WCN6856がオプションとして用意されているDell Inspiron 16 5625の仕様)