
Intel(Killer)・AMD/MediaTek・Realtekの各社から発売されている、または今後投入されると思われるPC向けIEEE 802.11ax(Wi-Fi 6 / Wi-Fi 6E)対応無線LANモジュールに関する情報をまとめています。本記事は随時更新します。
2023年現在のPC向けWi-Fi 6モジュール
2023年現在、Wi-Fi 6およびWi-Fi 6Eに対応するPCの多くで採用されているのはIntelが供給するWi-Fi/Bluetoothコンボモジュールで、Wi-Fi 6E対応製品ではIntel Wi-Fi 6E AX210/AX211、Wi-Fi 6対応製品ではIntel Wi-Fi 6 AX200/AX201を搭載するものが大半を占めます。この他にエントリーモデルとしてIntel Wi-Fi 6 AX101/AX203、2つの周波数帯を同時に使用できる上位モデルとしてIntel Wi-Fi 6E AX411が存在するものの、2023年4月時点における実機での採用例はあまり見られません。
また、2021年にはAMDがMediaTekと共同でWi-Fi 6E対応モジュール「RZ608」(Filogic 330P / MT7921K)・「RZ616」(同 / MT7922)を発表し、RZ608は既にASUS・GIGABYTEの一部マザーボードやPCI Express接続の拡張カードなどで採用されています。
Intel
2023年現在、Intelから(Intel Wi-Fi 6・Intel Wi-Fi 6Eブランドで)供給されているIEEE 802.11ax対応モジュールは大きく7種類で、フォームファクタによって更に細分化されます。
6GHz帯非対応モデル(デュアルバンド)
- Intel Wi-Fi 6 AX200("Cyclone Peak")
- AX200NGW(M.2 2230)
- AX200D2W(M.2 1216)
- AX200D2WL(M.2 1216)
- Intel Wi-Fi 6 AX201("Harrison Peak")
- AX201NGW(M.2 2230)
- AX201D2W(M.2 1216)
- AX201D2WL(M.2 1216)
- Intel Wi-Fi 6 AX101("Harrison Peak")
- AX101NGW(M.2 2230)
- AX101D2W(M.2 1216)
- Intel Wi-Fi 6 AX203("Johnson Peak")
- AX203NGW(M.2 2230)
- AX203D2W(M.2 1216)
6GHz帯対応モデル(トライバンド)
- Intel Wi-Fi 6E AX210("Typhoon Peak")
- AX210NGW(M.2 2230)
- AX210D2W(M.2 1216)
- Intel Wi-Fi 6E AX211("Garfield Peak")
- AX211NGW(M.2 2230)
- AX211D2W(M.2 1216)
- Intel Wi-Fi 6E AX411("Garfield Peak")
- AX411NGW(M.2 2230)
- AX411E2W(M.2 1625)
M.2 2230形状の製品はマザーボードのM.2 Key Eスロットに取り付けることができ、通常のPCI Express/USBで接続されるAX200/AX210であればIntel製プロセッサ・チップセット以外の環境でも利用できるため、モジュール単体での流通例も数多く見られます。
これに対してM.2 1216形状の製品は一部のノートPC等に組み込まれていますが、M.2 2230タイプのものと異なり基本的に単体では流通していません。M.2等のスロットを介さず基板へハンダ付けされているため、仮にモジュール単体を入手できた場合の交換も困難となります。
Upgrade soldered M.2 1216 Wireless Card – Ricardo Rodrigues
AX200/AX201/AX210の違い

3種の大まかな違いは上図の通りです。
AX200
AX200はIntelのデュアルバンドWi-Fi 6モジュールにおける最もスタンダードな製品で、5GHz帯において最大2,402Mbps、2.4GHz帯で最大574Mbpsの通信が可能です。
動作に必要なCPUやマザーボードの明確な要件は規定されておらず、64bit版Windows 10またはカーネルバージョン 5.1以降のLinuxが動作していれば(一部メーカー製PCにおいて利用可能なモジュールがホワイトリストで管理されている場合などを除いて)幅広い環境で利用できます。このため、2019年に投入されてから多くのPC・マザーボード・無線LAN拡張カードで採用されています。
The connector interface of the Intel® Wi-Fi 6 AX200 is PCIe and there is no need for a specific processor for general use.
Minimum Processor Required to Use Intel® Wi-Fi 6 AX200 (GIG+)
Intel Wi-Fi 6 Gig+ Desktop Kit

インテル® Wi-Fi 6 (ギガビット +) デスクトップ・キット 製品仕様
アンテナケーブル接続済みのAX200NGWと外部アンテナ・ブラケットをセットにした商品として「Intel Wi-Fi 6 Gig+ Desktop Kit(AX200.NGWG.DTK)」が販売されており、M.2 2230スロットを備えるデスクトップPCへの組み込みを容易に行えます。
AX201
AX201は無線LAN・Bluetoothモジュールとして動作するための要素を部分的に切り出したCompanion RF (CRF) Moduleであり、利用に際しては対応するチップセット(および当該チップセットに対応するCPU)が不可欠です。通信速度はAX200と変わりません。
What Are the Intel® Integrated Connectivity (CNVi) and Companion RF (CRF) Module? - Intel Support
Each core in the Connectivity Controller has an interface to the host and an interface to its counterpart in CRF. CRF cores include an analog part which is connected to board level RF circuitry and to an antenna.
Intel® 500 Series Chipset FamilyPlatform Controller Hub Datasheet, Volume 1 of 2
AX210
AX210はAX200/AX201の5GHz帯・2.4GHz帯に加えて6GHz帯(5,925 - 7,125MHz)がサポートされたWi-Fi 6E対応モデルです。日本国内では2022年9月の制度改正によって6GHz帯が利用可能になったため、これより前に発売されたAX200搭載製品では6GHz帯の国内利用がサポートされていない場合があります。
AX211
2021年第3四半期に投入されたAX211はAX210と同じくWi-Fi 6Eに対応しているものの、AX201と同様にCNVio2対応プロセッサ・チップセットとの組み合わせでのみ使用可能なモデルです。
AX411
2021年第4四半期に投入されたIntel Wi-Fi 6E AX411はAX211同様のCNVio2対応モデルですが、従来の製品と異なり2.4GHz帯と5GHz帯、もしくは2.4GHz帯と6GHz帯の同時利用に対応しています。
Intel® Wi-Fi 6E dual-radio products with Intel® Double Connect Technology, when used with file transfer applications that support band aggregation, enable nearly 3 Gbps theoretical speeds with simultaneous 2.4 and 5 or 6GHz band aggregation.
https://edc.intel.com/content/www/us/en/products/performance/benchmarks/wi-fi/
同等仕様のIntel Killer Wi-Fi 6E AX1690を搭載する製品として、ASRockからZ690チップセットのマザーボード「Z690 Taichi Razer Edition」が発表されています。
AX200/AX210を組み込んだ製品

PCI Express x1スロットに装着可能なIEEE 802.11ax対応無線LAN拡張ボードはほとんどがAX200またはAX210を組み込んだ上でアンテナ・ブラケット・ヒートシンクを取り付けて構成されており、国内で販売されている製品ではTP-Link Archer TX3000E・Archer TX50E、ASUS PCE-AX58BTが該当します。アンテナやヒートシンクの形状は製品によって異なるものの、対応規格や最大通信速度などに差異はありません。
社外品Mini PCI Expressモデル
Mini PCI ExpressタイプでIEEE 802.11ax対応を謳う製品として「MPE-AX3000H」・「AX3000HMW」・「AX210HMW」・「AX200HMW」・「TL-AX210」などが流通していますが、これらはいずれも外部の業者が調達したIntel製モジュールをMini PCIe形状のカードに組み込んで販売しているものです。内部でアンテナ線が正しく接続されていない、エンジニアリングサンプルが流用されているといった事例もあるようです。
Killer
「Killer」ブランドでネットワーク機器を展開していたRivet Networksは2020年にIntelによって買収され、現在の「Killer」はIntelのブランドとなり存続しています。
以下の製品を対象に専用ソフトウェア「Killer Control Center」やドライバを含む「Killer Performance Suite」が配布されているものの、ハードウェア部分はIntel AX200/AX201/AX210/AX211/AX411と共通です。(Intel ARKではベースモデルと同じ開発コード名に分類され、同様のオーダーコードが割り当てられています)
Killer製品名 | Intel製品名 | フォームファクタ | 開発コード |
---|---|---|---|
Intel Killer Wi-Fi 6 AX1650 x | Intel Wi-Fi 6 AX200 AX200NGW | M.2 2230 | Cyclone Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6 AX1650 w | Intel Wi-Fi 6 AX200 AX200D2W | M.2 1216 | Cyclone Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6 AX1650 i | Intel Wi-Fi 6 AX201 AX201NGW | M.2 2230 | Harrison Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6 AX1650 s | Intel Wi-Fi 6 AX201 AX201D2W | M.2 1216 | Harrison Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6E AX1675 x | Intel Wi-Fi 6E AX210 AX210NGW | M.2 2230 | Typhoon Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6E AX1675 w | Intel Wi-Fi 6E AX210 AX210D2W | M.2 1216 | Typhoon Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6E AX1675 i | Intel Wi-Fi 6E AX211 AX211NGW | M.2 2230 | Garfield Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6E AX1675 s | Intel Wi-Fi 6E AX211 AX211D2W | M.2 1216 | Garfield Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6E AX1690 i | Intel Wi-Fi 6E AX411 AX411NGW | M.2 1216 | Garfield Peak |
Intel Killer Wi-Fi 6E AX1690 s | Intel Wi-Fi 6E AX411 AX411E2W | M.2 1625 | Garfield Peak |
Killer AX500(AX500-DBS)
Rivet Networks時代に投入された「Killer AX500(AX500-DBS)」もKiller AX1650と同じくIEEE 802.11axに対応する無線LANモジュールですが、このモデルについては他の製品と異なりQualcommのチップ(Qualcomm FastConnect 6800 QCA6390)が採用されています。
採用例はDell XPSシリーズのごく一部に留まっており、他機種での採用やモジュール単体での流通は確認できません。また、Intelのサイトでもサポート関連情報で製品名は確認できるものの、ドライバ・ソフトウェア類の配布は行われていないようです。(上記『Killer Performance Suite』の配布ページにはKiller AX500を含むQualcomm Atheros製チップ搭載機器向けの新たなドライバを含まない旨の記述があります)
Support for Intel® Killer™ Wi-Fi 6 AX500-DBS
Solved: Re: XPS 13 9310 WiFi randomly shuts down (AX500-DBS) - Page 27 - Dell Community(PCに実装されたAX500-DBSの画像)
Killer 500 Wi-Fi UWD Driver | Driver Details | Dell US
AMD
RZ600シリーズ
2021年11月に発表された「RZ600」シリーズは2.4GHz帯・5GHz帯・6GHz帯に対応するWi-Fi 6E + Bluetooth 5.2のコンボモジュールで、MediaTekのチップを基に製品化されています。
AMD RZ616(MT7922)
上位モデルのRZ616は5GHz帯・6GHz帯で160MHz幅の通信をサポートしており、最大2.4Gbpsでの通信を行えるIntel AX210/AX211相当の仕様となっています。
AMD RZ608(MT7921K)
対して下位モデルのRZ608では5GHz帯・6GHz帯の最大帯域幅が80MHzに制限されており、通信速度は最大1.2Gbpsに留まります。2.4GHz帯の通信速度は最大574MbpsでRZ616やIntel AX2xxシリーズと共通です。
ASUS製マザーボードでの採用
ASUSのSocket AM4(X570/B550チップセット搭載)マザーボードのうち、製品名末尾に「II」が付くものはRZ608=MT7921KもしくはMT7921を採用しています。2021年12月現在、RZ608/MT7921の採用が確認できる製品は以下の通りです。(マザーボード製品ページの仕様にはモジュールの記載がありませんが、製品マニュアルの付録部分に記載されています)
- X570
- ROG STRIX X570-E GAMING WIFI II(RZ608=MT7921K)
- TUF GAMING X570-PRO WIFI II(RZ608=MT7921K)
- B550
- ROG STRIX B550-F GAMING WIFI II(RZ608=MT7921K)
- TUF GAMING B550-PLUS WIFI II(MT7921)
- TUF GAMING B550M-PLUS WIFI II(MT7921)
- PRIME B550M-A WIFI II / PRIME B550M-A WIFI II-CSM(MT7921)
GIGABYTE製マザーボードでの採用
GIGABYTE製のAMD X570S・B550マザーボードは一部のリビジョン(rev. 1.1)でRZ608を採用しており、仕様には「AMD Wi-Fi 6E RZ608 (MT7921K)」との表記があります。いずれもrev. 1.0ではAX200が搭載されていたため、RZ608への変更に伴い6GHz帯のサポートと引き換えに周波数帯あたりの最大通信速度(5GHz/6GHz帯)は2.4Gbpsから1.2Gbpsに低下したことになります。
2021年12月現在、下記の各製品においてRZ608の採用が確認できます。
- X570S
- B550
MediaTek
製品名・主な仕様の一覧
MediaTek製品名 | MT7921 | MT7921K | MT7922 |
---|---|---|---|
AMD製品名 | - | AMD Wi-Fi 6E RZ608 | AMD Wi-Fi 6E RZ616 |
他社モジュール製品名 | AW-XB468NF (AzureWave) | N/A | N/A |
最大通信速度 (6GHz帯) | - | 1,201Mbps (2str/80MHz) | 2,402Mbps (2str/160MHz) |
最大通信速度 (5GHz帯) | 1,201Mbps (2str/80MHz) | 1,201Mbps (2str/80MHz) | 2,402Mbps (2str/160MHz) |
最大通信速度 (2.4GHz帯) | 574Mbps (2str/40MHz) | 574Mbps (2str/40MHz) | 574Mbps (2str/40MHz) |
MT7921(MT7921L/MT7921LEN)
MediaTekはASUSのゲーミングノートPC向けにIEEE 802.11ax対応チップセット「MT7921」を供給することを発表しており、実際にASUSが公開している資料においてMT7921の名称が確認できます。多くの資料には「Azwave AW-XB468NF」との表記があり、台湾AzureWave Technologiesによってモジュール化されたものが搭載されているようです。
MediaTek Wi-Fi 6 Chipset Powers New ASUS Gaming Notebooks | MediaTek
0C012-00150000 - Asus-WIFI 6 AX+BT5.0 (2*2) M.2 2230 G + 用 | eBay
MT7921LS
Amazonが2021年に発売したHDMI接続のスティック型メディアプレイヤー「Fire TV Stick 4K Max (第1世代)」はデュアルバンド IEEE 802.11ax/ac/a/b/g/nに対応し、チップセットとしてMediaTek MT7921LSを採用していることが開発者向けサイトで公開されています。
Device Specifications: Fire TV Streaming Media Player | Amazon Fire TV
ASUS PCE-AX1800
ASUSのグローバル版サイトに掲載されている「PCE-AX1800」はPCI Expressスロットに装着する無線LAN/Bluetoothカードで、製品画像からAzureWave AW-XB468NF=MediaTek MT7921の搭載が確認できます。5GHz帯で最大1,201Mbps、2.4GHz帯で最大574Mbpsの通信に対応するデュアルバンド「AX1800」クラスで、MT7921の仕様上6GHz帯はサポートされていません。
PCE-AX1800|Adapters|ASUS Global
MT7921K
MT7921が5GHz帯+2.4GHz帯のデュアルバンド構成を採っているのに対し、MT7921Kは6GHz帯のサポートが追加された構成(トライバンド『AXE3000』)です。6GHz帯および5GHz帯の通信速度は最大1,201Mbpsで、MT7921の5GHz帯と変わりません。
MediaTek . 2TX 11ax (WiFi6E) + BT/BLE Combo Card MT7921K FCC ID RAS-MT7921K
M.2 2230形状のモジュールとしてAliExpress等で販売されており、表面には「RZ608」の表記が見られます。
Realtek
RTL8852(RTL8852AE)
製品名が明らかになっているRealtek製のIEEE 802.11ax対応製品として「RTL8852AE」が存在し、既にFCC・Wi-Fi Alliance・総務省(工事設計認証)などの認証を通過している他、SparkLANからはRTL8852AEを組み込んだモジュールとして「WNFT-238AX(BT)」が公開されています。
メーカーから仕様に関する詳細な情報は公開されていないものの、FCCの認証資料によると空間ストリーム数は5GHz/2.4GHz共に最大2、対応帯域幅は5GHz帯が最大80MHz、2.4GHz帯が最大40MHzとなっており、ハードウェアの仕様上は最大1,201 + 574Mbpsの通信が可能な「AX1800」クラスと思われます。
Realtek Semiconductor . 11ax RTL8852AE Combo module RTL8852AE FCC ID TX2-RTL8852AE
瑞昱半導體新一代高度整合2.5GbE電競網路解決方案 (RTL8125BG + RTL8852AE & RTL9313 + RTL8221B) 榮獲2021台北國際電腦展創新設計獎 - 瑞昱半導體
WNFT-238AX(BT) - Realtek RTL8852AE MU-MIMO M.2 Module | SparkLAN
AW-XB473NF/AW-XB503NF
同じくRTL8852AEを搭載したM.2 2230サイズの無線LAN/Bluetoothモジュールとして「AW-XB473NF」もしくは「AW-XB503NF」が存在します。